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Mon histoire aux tresoirs アンティークディーラーのとっておき Vol.1

2016.05.01

仕事柄、日々アンティーク雑貨に触れ良い物をたくさん見てきたその道のプロたちに、どうしても売り物にはできなかった秘蔵の一品やお気に入りのコレクションを紹介してもらう企画ページです。

Mille Chatsのロゴ

第一回ゲスト 八木涼子さん

パリから日本へ向けて発送するアンティークネットショップ「Mille Chats(ミルシャ)」オーナー。 その審美眼で選び抜かれたアンティークレースは美しく貴重なものばかりで、レースコレクターをはじめ手作り作家さんたちにもファンが多い。
ウェブサイトURL: http://www.mille-chats.com

―まずはアンティークショップを始めたきっかけを教えて下さい。

パリに住み始めた頃、日本の友人からアンティーク雑貨の買い付けを頼まれたのがきっかけとなり、いつの間にか古くて味わいのあるアンティークの魅力に取りつかれてショップを始めました。雑貨は幅広く好きで、その中でも特にアンティークレースに惹かれて、ミルシャのショップでもメインで扱っています。レースを選んだ理由がはっきりとあるわけではないんですが、以前ファッション関係の仕事をしていた時に、オートクチュールの衣装など質の良い素材に触れる機会が多かったことが影響しているのかな、と思います。

箱に入ったアンティークレース



―八木さんのとっておきアイテムとは?

アンティークレースを愛してやまない私のとっておきは、もちろんアンティークレース。販売用とは別に自分のための秘蔵コレクションがあります(笑)
その中からひとつだけ挙げるなら、1730年頃に作られたヴァレンシエンヌレース(フランス・ヴァレンシエンヌ地方発祥のハンドメイドレース)です。こちらは私が持っているレースの中で最も細い糸で繊細に織られたボビンレース(いくつもの糸巻きに巻いた糸を織りながら作るレース)。その美しさに加え、300年近くもの年月を経て私の元にやってきたのだと思うと愛おしさもひとしおです。
これを初めて手にしたのはアンティークレースに魅せられ始めた頃で、当時の私は貴重なハンドメイドレースと言えばポワンドガーズやアランソンレース(※1)くらいしか知りませんでした。でもこのヴァレンシエンヌレースをひと目見た時、ふわりと繊細で明らかにハンドメイドな雰囲気で、相当年代の古いもの、今まで見てきたのとは別のものだとぱっと気づきました。

※1 ポワンドガーズやアランソンレース : 貴重なニードルポイントレース(紙に描かれた下絵に沿って針で刺繍しながら作るレース)で、世界中の愛好家に人気があります。

アンティークのヴァレンシエンヌレース



同じ頃、レースを扱うアンティークディーラーさんやコレクターさんたちとの繋がりもできてきて、このヴァレンシエンヌをオークションのレース鑑定をしている友人に見せたところ「羨ましいほど素晴らしいヴァレンシエンヌね!あなたはとてもいい目とセンスを持っているから、これからも美しいレースをたくさん見て集めなさい。」と言ってくれて、とても嬉しかったです。
優しい友人がおだててくれた訳ですけれど、そこから視界が開けていくかのように、アンティークレースの世界がどんどん広がりました。美しいデザイン、細やかという言葉では片付けきれないほど繊細で膨大な手仕事によって作られたレースを見ているだけで心が躍り、種類や年代を識別してレースを知り、語ることが楽しくなりました。レースを通して多くの方々と素敵なご縁ができたのも私の宝物です。同時に、こんなにアンティークレースが大好きになったのは人との出会いのおかげですし、たくさんの偶然の重なりに感謝しています。
数々の美しい貴重なレースを見てきた今も、このヴァレンシエンヌはやっぱり素晴らしく思えて、たまに取り出しては眺めます。レースをよく知らない蚤の市のディーラーさんが、売り文句で「これはミュージアムピースだよ」なんて適当なことを言うことが時々ありますが、これは本当に博物館にあってもおかしくないレース。アンティークレースの魅力のひとつはそういう歴史的にも文化的にも貴重な品を手にし、実際に触れられる点にもあるかと思います。

アンティークレース



―モノだけではなく、その背景にも魅力を感じているのですね。

そうですね。このレースがどんな風に人の手を渡ってやって来たんだろう…なんて考えたりして。当時もレースは上流階級だけに許された貴重なものですから、貴族のお嬢さんが煌びやかな舞踏会に着て行ったドレスにあしらわれていたのかも…それが突飛な想像ではなくあり得るのが面白いところです。前にフランスでは名の知られた高貴な家系の方からレースを譲り受けた時には、もしかすると歴史上のあの方が身に付けていたものかも!と思うとドキドキしました。
また、レースのデザインや産地は歴史的背景や文化、産業に密接なつながりがあるので、その辺りを勉強するのも面白いですし、19世紀の後半のファッションプレート(※2)やモード新聞を見ながらレースがどのように使われているか考察するのも興味深いです。

※2 ファッションプレート:当時の服飾カタログのようなもの。この時代にはまだ写真が発明されていなかったため、モノクロで刷った銅版画に手作業で色付けをして作られた。


―アンティーク雑貨の魅力はどのようなところだと思いますか?

アンティークの魅力は自分で物の価値を決められることだと思います。もちろん全ての物に言えることではありますが、アンティークは特に顕著だと感じます。物への想いが独自の価値を生み出すということですね。 例えば私は17〜18世紀のレースの小さなハギレを集めているのですが、商品にはなりませんし、興味のない方から見ればただのボロボロ…。でも私にとってはキラキラした宝石みたいに全てが魅力的に見えるんです。大抵ぐちゃぐちゃのレースの山に混じって売られていて、その中から見つけた時はとっても嬉しくて。誰も気に留めないような中にひっそりと隠れているキラっとするものを探してきて、箱にしまうのはうっとりするような楽しみです。コレクションにひとつレースが加わるごとに、思い入れも加わっているんです。

あとは、時をつないでいけることも魅力ですね。長い長い年月の色合いをしっかり染み込ませたものが、価値を見出してくれる人の手に渡り、また新しい場所で時を刻んでいくことができる。それは上質なものだからこそだとも思います。
その橋渡しができるのがアンティークディーラーなので、この仕事に出会えたことをとても幸せに思っています。曇らぬ純粋な目で探した大好きなものの中から、私がアンティークレースに出会ったように、どなたかがとっておきを見つけてくれると嬉しいです。


―八木さん、素敵なお話をありがとうございました。次回のゲストもお楽しみに!

パリの大通りを走る車